『住みよい地域環境を守るために』
小松島市の農業委員会に所属し、耕作放棄地などが増えないよう田浦町の農地の管理を行っています。父から農業を引き継ぎ35年になりますが、およそ半分の期間は兼業農家でした。洋ランの栽培が増え専業農家となりました。
農業は、昔と違って米だけで生計を立てていくのは難しい上に、コロナ禍で外食産業が低迷し、昨年収穫した米も随分売れ残り、農業を辞めてしまう人が増えてきそうな現状です。米を生産して機械代が払えない厳しい時代です。シンビジウムの栽培でなんとかまかなえている状態でしたが、昨年から花の世界でもコロナの影響が大きく、卒業式、入学式、イベントがなくなり、冠婚葬祭もずいぶん減少し、今後にも影響が出るのではと心配な日々です。
4年くらい前から、田んぼの生き物調査のためのほ場を提供しています。最初にこの話を受けたときは、すぐにピントきませんでした。それほど、生物多様性の認知度は低いですがこれから重要になってくると思います。一方で温暖化の影響は十分感じています。7、8年前から高温障害で米が白濁するという影響が出ています。昔はこのあたりが米所でしたが、今は北海道が米所、これも温暖化の影響ではないでしょうか。米作りのために田んぼに水を張ることだけでも、気温低下になり温暖化防止にも少しは役立ちます。水田があれば、盛夏でも吹いてくる風が涼しい。道の向こうは風もむっとするようなのですが、水田のあるあたりは涼しいことを実感しています。
勝浦川から水をひいて管理していますが、9月に収穫する米はお盆を過ぎると水が必要なくなります。取水制限をして水をグッと落としてしまいます。ほ場整備ができていないので収穫時期の違う周囲の状況と合わすしかないのが大変です。それでも、こういう環境だから生き物がたくさん棲めるのだと思います。この環境を維持していくためには、水問題も含め次の世代に引き継げるような政策をしてほしいと願っています。
地域の環境を守るためには地域の現状にあった独自の施策が必要です。ほ場整備などの一律の補助では、環境を守ることができません。ほ場整備は、各農家の意見を聞いて計画を立てるまでに5年、完成するまでに10年かかります。完成する頃には農業従事者の大半がリタイアしています。それなら、現状の農業を維持するために補助金を使う方が実情に合っていませんか。
環境保全のためにも、この水田は残していかなければなりません。田んぼは、次の世代に引き継いでいく宝だと思います。田浦地区で耕作放棄地が減っているのは、環境保全隊を結成し、草刈りを呼びかけ、年に2回の草刈りを行っているからです。以前は農家だけが水路の清掃を行っていましたが、今は非農家の方も参加して、年3回清掃を行うようになりました。そのためか、水路に捨てられた空き缶などのゴミが随分減ってきました。最近は、蛍も飛び交い、ナマズやモクズガニが生息しています。
将来に気候変動で洪水や干ばつが繰り返し襲い、食べ物が手に入らない時代になるかもしれません。人にとって、一番必要なのは「食」です。その「食」を守るためにも、環境管理の継続が必要です。1年2年ではどうにもなりませんが、生産者も消費者も意識を根本から変えていけば、いつか住みよい地域、住みよい地球になります。